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聖学院大学研究叢書
地域から読み解く「保護する責任」:普遍的な理念の多様な実践に向けて
21世紀の国際政治において最も論争的な概念の一つといえる「保護する責任」。紆余曲折を経て、国際的に定着してきたものの、いまだその全体像や現在地は不明瞭なままである。本書が描き出すのは、単なる強制的な軍事介入や「人道的介入」といった側面にとどまらない「保護する責任」の射程、また、世界各地の地域的な文脈を背景とした多様な展開である。2017年に出版された『資料で読み解く「保護する責任」』の姉妹本となっている。聖学院大学研究叢書ティリッヒと逆説的合一の系譜
ティリッヒは「聖なるもの」という宗教的経験から出発し、シェリングの二つの原理、すなわち「同一性の原理」と「対立の原理」の総合という第三の道を歩む中で、その弁証学的神学を発展させた。そして、その総合を可能としたのが、ティリッヒが新たに捉えた信仰義認論であり、その中核に本書が〈逆説的合一〉と呼ぶ原理が存在したのである。そして、その原理は、ティリッヒにのみ留まるものではなく、広く西洋思想全般にも見られるもので、それはティリッヒが「アウグスティヌス的フランシスコ的伝統」と呼ぶ一連の思想的潮流であり、基本的には存在における神と人間との逆説的合一と認識における直接的神認識をその特徴とする。それは、極言して言えば、神から出発し、神に立ち返る思想である。ただし、そこには人間の罪という根本的な対立があるため、それを克服したキリストを媒介とする逆説的合一を不可欠とし、そのため、それを中核とする思想でもある。聖学院大学研究叢書近代日本精神史の位相 : キリスト教をめぐる思索と経験
近現代日本の〈思想家〉と目される存在と向き合ってきた著者の関心は一貫して、対象とする思想家の「論理」とともに、その論理を通底する世界――思想家をしてそのような営みをなさしめた、精神の原器とも言うべきもの――に注がれてきた。「思想史」ではなく「精神史」を冠するのは、その実りとして本書があるからである。第一部「新渡戸・内村門下への一視角」では、前田多門、南原繁と坂口安吾、松田智雄を、第二部「キリスト教受容の諸相」では、地方の一小学校教師、波多野精一、氷上英廣、井上良雄を、第三部「『近代の超克』とカトリシズム」では、吉満義彦を論じている。聖学院大学研究叢書ニーバーとリベラリズム : ラインホールド・ニーバーの神学的視点の探求
バラク・オバマ米大統領がその影響を受けていることを明言したことによって関心を集めることとなったニーバー。その思想の特質の明確化を試みる。神学的リベラリズムと政治的リベラリズムとの明示的・暗示的な取り組みを背景に、ニーバー特有の歴史との関係における超越的神学的視点を明らかにする。聖学院大学研究叢書アメリカにおける神の国
本書は,アメリカの社会学者,倫理学者,また神学者として知られる著者が,アメリカにおいて「神の国」という思想がどのように展開したかを歴史的に論じた古典である.1937 年の出版であるが,アメリカとは何かを神学的に解明しており,現代のアメリカのキリスト教,アメリカ社会を理解するうえで欠くことのできない書物である.聖学院大学研究叢書とはずがたりの表現と心:「問ふにつらさ」から「問はず語り」へ
『とはずがたり』は1938 年に発見され,埋もれた古典として話題になった文献であるが,それ以降,研究者によって地道な注釈研究がなされてきた.本書は,それらの成果を踏まえながら,作品の背景である宮廷貴族の生活を解明し,主題となっているさまざまな人間関係の中で苦悩する著者の生き方を現代に甦らせている.聖学院大学研究叢書地域に求められる人口減少対策:発生する地域問題と迫られる対応
人口減少は住民という縮んでしまうパイの奪い合いを意味し,自治体の淘汰に繋がりかねない.しかしこの危機感は特に東京都市圏に含まれる自治体の間で芽生えていない.本書は,自治体へのアンケート調査をもとに,「人口減少期に対応する意識と政策」を分析し,人口減少というこれまで自治体が前提としてきた人口増加とはまったく異なるシナリオを提示.聖学院大学研究叢書医療と福祉における市場の役割と限界:イギリスの経験と日本の課題
イデオロギーの対立が消滅して,グローバリゼーションが進行し,あらゆる場面で経済競争が激化している.医療・福祉などの社会保障の分野でも例外ではない.そのサービスの質と平等を確保しつつ,いかにそれらのシステムを効率化していけるかが各国で模索されている.本書は,この重要な主題を論じたものである.聖学院大学研究叢書エラスムスとルター:一六世紀宗教改革の二つの道
自由意志の問題は,古代から中世,近代にかけて,アウグスティヌスとペラギウス,エラスムスとルター,ジェズイットとポール・ロワイヤルの思想家たち,さらにピエール・ベールとライプニッツなどの間で激烈な論争が繰り広げられた哲学と神学の重要主題であった.本書では自由意志と奴隷意志論争を焦点にルネサンスと宗教改革という二つの精神上の運動を述べる.聖学院大学研究叢書歴史と探求:レッシング・トレルチ・ニーバー
中間時における真理の多形性をとく「真理の愛好者」レッシング,「徹底的歴史性」の立場でキリスト教的真理の普遍妥当性と格闘したトレルチ,歴史の有意味性を弁証しつづけたニーバーのそれぞれの思想的連関を考察し,著者の神学的・宗教哲学的立場から偶然的な歴史的真理と必然的な規範的真理の関係性を明らかにする.聖学院大学研究叢書「文明日本」と「市民的主体」:福沢諭吉・徳富蘇峰・内村鑑三
開国と明治維新は,近代日本の為政者と人民に思想的に大きな課題を突きつけた.それは日本の目指す政治体制,為政者の役割,人民の生き方,あるいは国際社会における自国の位置付けを,世界に向かって「理解されるもの」として語る必要からであった.本書では,「文明日本」と「市民的主体」の二構想を諭吉・蘇峰・鑑三の思想を通して明らかにする.